東京地方裁判所 昭和40年(ワ)969号 判決 1966年7月20日
原告 小林誠男
被告 西藤善朗
被告 杉山正勝
主文
被告らは各自原告に対し金一五〇万円およびこれに対する昭和三九年一一月一二日から支払ずみまで年三割の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は、原告が金五〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、その請求の原因として、
一、原告は昭和三九年一〇月一二日被告西藤に対し金二〇〇万円を返済期同年一一月一一日、利息および期限後の損害金月四分の約で貸付けたところ、被告杉山は同時に被告西藤を代理人として原告に対し被告西藤の原告に対する右貸金債務につき連帯保証する旨を約した。
二、仮に被告西藤に被告杉山を代理して右連帯保証契約を締結する権限がなかったものとしても、被告杉山は被告西藤に対し白紙委任状を交付して自己を代理してなんらか特定の私法上の法律行為をなす権限を付与したものであるところ、被告西藤はその与えられた代理権の範囲をこえて右連帯保証契約を締結したものであるが、被告西藤は被告杉山と以前から交友関係にあり、被告杉山が専務取締役となっている株式会社東京観光ホテルの設立について金五〇〇万円の融資をした関係にあり、本件連帯保証契約締結にあたって被告西藤は被告杉山から交付を受けた白紙委任状および同人の印鑑証明書を呈示し、かつ、右貸金債務の一部支払の担保として同人振出の金一〇〇万円の約束手形を持参し、原告に対し被告杉山から右連帯保証契約締結に関する代理権を付与されている旨言明したので、原告は被告西藤に被告杉山を代理して右連帯保証契約を締結する権限があると信じて右連帯保証契約を締結したものであり、原告がそう信じたについては正当な理由があったものというべきであるから、被告杉山は被告西藤の右貸金債務について連帯保証人としての責に任ずべきものである。
三、しかるに被告西藤は右貸金のうち金五〇万円を返済したのみで、その余の支払をしないので、原告は被告らに対し各自右貸金残金一五〇万円およびこれに対する返済期の翌日である同年一一月一二日から支払ずみまで約定利率を利息制限法の範囲内に引き直した年三割の割合による遅延損害金を支払うべきことを求める。
と陳述し、
<省略>
被告西藤は、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しなかった。
被告杉山訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張の事実のうち被告杉山が被告西藤に対し白紙委任状および印鑑証明書を交付したことは認めるが、被告杉山が被告西藤に対し原告主張のような代理権を与えたとの事実は否認する。その余の事実は知らない。右白紙委任状および印鑑証明書は、被告西藤が代表取締役となっている日東美術株式会社の整理のために設立されることとなった新会社の役員に被告杉山が就任するのに必要だということで被告西藤に交付したものである。仮に被告西藤が被告杉山の代理人として原告主張のような連帯保証契約を締結したものであって、原告が被告西藤に右代理権があると信じたものとしても、原告は被告杉山に対し右代理権付与の有無について確認することもなく漫然とそのように信じたものであるから、原告がそう信じたことについては過失があったものであると陳述し、
立証として、<以下省略>。
理由
<省略>原告が昭和三九年一〇月一二日被告西藤に対し金二〇〇万円を返済期同年一一月一一日、利息および期限後の損害金月四分の約で貸付けたこと、被告西藤が同時に被告杉山の代理人として被告西藤の原告に対する右貸金債務につき連帯保証する旨を原告に対し約したことが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
原告は被告西藤に被告杉山を代理して右連帯保証契約を締結する権限があったと主張するけれども、被告西藤に右のような代理権があったと認めるに足りる的確な証拠はないから、原告の右主張は失当である。しかし、前掲証拠と成立に争のない甲第一号証の二、<省略>および原告本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第一号証の一ならびに被告杉山正勝の本人尋問の結果の一部を併せ考えると、被告杉山は昭和三九年一〇月一二日被告西藤に対し金一〇〇万円の約束手形を振出し交付し、これを担保として他から金員の融通を受けることを依頼し、その方法として被告西藤が他から金一〇〇万円を借受け、被告杉山は被告西藤の貸主に対する右貸金債務につき連帯保証人となることを承諾し、被告西藤に対し自己を代理して右連帯保証契約を締結する権限を付与し、右代理権を証するため白紙委任状を被告西藤に交付したこと。被告西藤は被告杉山から交付を受けた右白紙委任状および約束手形を原告に呈示して被告西藤が原告から金二〇〇万円を借受けるについて被告杉山が連帯保証人となる旨の契約を被告杉山の代理人として締結する権限を与えられていると言明したので、原告は被告西藤に右代理権があると信じて前記連帯保証契約を締結したものであることが認められ<省略>なお甲第一号証の一委任状のペン書の部分は本件貸金にあって原告が被告西藤の面前で同人の了承のもとに記入したものであることが原告本人尋問の結果により認められるけれども、前記認定を妨げるものではないし、甲第一号証の二(印鑑証明書)の作成日付が同年一〇月一五日となっているが、原告本人尋問の結果によれば、右印鑑証明書は本件貸金授受の後に追完されたものであることが認められるから、前記認定の妨げとはならない。してみると、被告西藤は被告杉山から与えられた代理権の範囲をこえて前記連帯保証契約を締結したものであるが、当時原告は被告西藤にその権限があると信じていたものであるし、原告がそう信じたことについては正当の理由があったものというべきである。もっとも原告は直接被告杉山に右代理権の有無について確認するなどの措置はとらなかったものであることは原告本人の供述によっても明らかであるが、原告が右措置をとらなかったからといって原告が右のように信じたことに過失があったものとはいえない。したがって、被告杉山は被告西藤の原告に対する右貸金債務について連帯保証人としての責に任ずべきものといわなければならない。
<省略>。